楊貴妃の漢方薬





漢方の扱い方しか知らぬ娘がいた。
彼女の漢方はあらゆる病魔を操った。
人の体。人の心。皇帝の愛さえも。
その名は「楊貴妃」。
漢方で一国を手に入れた女。

漢方は万能
漢方は娘を女帝にし
漢方は国を滅ぼす

姓は楊、名は玉環。その娘は貧しい家に生まれた。兄弟や仲間はスラム街にたむろし、スリやたかりを助けるのが唯一仕事だった。だが、娘は気丈で陽気。いつか華やかな宮殿に住む事を夢見ていた。

ある夜、玉環は裏路地で奇妙な薬売りに出会う。薬売りは漢方を自在に操り、人の病、人の心までをも治癒変貌させる。その薬売りは楊玉環の野心や強い功名心を言い当てる。漢方の驚くべき効能を目の当たりにした楊玉環は薬売りに従い仕事を始める。いつしか、彼女は漢方の秘密、奥義をも修めるまでに成長してゆく。その類い希なる漢方の知識で、楊玉環の人生は一変するのである。娘は漢方によってあらゆるものを手に入れていった。信用、金、名声。なにより、その「美貌」である。いつしか漢方で人の心身を操る「不思議な魔女」となっていく玉環・・・。







ある時、老いて病に伏せる皇帝の回復を願う式辞がとり行われる。玄宗は唐最大の王と言われ、そのカリスマ性と明晰な頭脳で国民から慕われていた。だが、齢60才を迎えた玄宗は死を迎えつつあった。宮廷へと紛れこみ自分の漢方の知識と治療を大臣らの前で見せる玉環。信用を得た彼女は皇帝へ漢方をほどこす。玄宗皇帝は驚くべき回復力で、まるで「若き王」として姿を現す。そして命の恩人である彼女をすぐに見初め、恋におちる。果たして、ついに娘は冠をかぶり 『女帝』となった。その名は楊貴妃。

楊貴妃は幸せの頂点にいた。玄宗は純粋で男らしく、理想の男性であった。しかし、漢方の力でまともな判断ができぬようになった玄宗皇帝は楊貴妃を溺愛しすぎ、府政を怠る。それにつれて、徐々に国は荒廃してゆく。だが、すべてを手に入れた女にはすべてがどうでもいい事だった。漢方を自在に操る女帝が手に入れた幸福は、すべて漢方の力による偽りの幸福だったからだ。一時の効能、かりそめの健康、そして薬による錯覚の愛に、心躍るものはないのである。後悔と虚無感が楊貴妃を悩ませ、玄宗との間もうまくいかなくなる。






いつしか、彼女は“真実の愛”を手に入れる事に想いをはせる。漢方の力のおよばぬ、人間の真実。神のいたずらだった。それは突然の事だった。楊貴妃は宮廷に呼ばれた詩人李白に随行する音楽師を一目見て愕然とする。その男はまぎれもなく李延年。一時も忘れることなく想い続けた、昔、死んだはずの恋の相手。一瞬、フラッシュバックする若き日の思い出。

女帝ではなく、真に愛を求めた一人の女となった楊貴妃。最後の漢方は彼女に何をさせようとしたのだろうか・・・。漢方の力がなすのは真実? 偽り? 滅び? おそらく、すべては万能という幻、愛という悲劇。「薬によって栄えた者は 薬によって滅ぶ」これは悲しくも切ない因果応報の物語。楊貴妃は愛に殉ずる女だったのか、それとも悪徳をなした魔女だったのか。 だが、それでも人は「万能薬」を永遠に追い求めるのである。








CAST

美津乃あわ
藤元英樹
保田 圭
つつみかよこ
腹筋善之介(Piper:IQ5000)
上瀧昇一郎(空晴)
伊藤えん魔
盛井雅司
斉藤 潤
田村K-1
天野美帆
坂本ユカ
内田 誠
篠 佑子
才花菜月


舞台写真/山田徳春(office 500G.)