“TREASURE OF FANTOMA” EVENING SPECIAL EDITION
2001年1・2月 第14号/編集発行人 損悟空浅野 牛八戒伊藤 三象美津乃 即身仏盛井




ある作家の
  妄想ブルース
SONG BY 伊藤えん魔

        


 その日、俺は例によって〆切りに追われていた。明日から次回公演の総合練習がスタートする。と、台本の進行状況を心配する主演女優Mから今日7回めの電話が入った。
「大丈夫だ。あと30分で完成する。」
 怪訝そうに予定をくり返す彼女を諭し、俺は携帯電話を切った。デスクに置いたワープロ画面には、60時間以上何も表示されずにいる。そう、新作の原稿は1行もできていない。
 
「こいつは・・・殺されるかもしれんな。」
 しばらく身を隠した方がよさそうである。一番早い航空チケットを予約する。幸いルフトハンザの841便にキャンセルがあった。ドイツならさすがに追っては来られまい。俺は簡単な着替えとそして『地球の歩き方ドイツ』をボストンバッグに詰め込んだ。万一の場合を考え、主演女優Mの機嫌とり用チョコエッグをポケットにねじ込んだ。(ピンポ〜ン) 突然のチャイムが俺の心臓を止めそうになる。連中め、先回りしたらしい。俺の部屋は3Fだが、ここは飛び下りるしかなさそうだ。そう決心した時、ドアの向こうから懐かしい歌声が聞こえた。

「As time goes by・・・♪  Ha,bibanonnon♪ 」

俺は急いでドアを開けた。やはり、そこに立っていたのは、昔の恋人のゴールディだった。
「また逃げようとしていたの、えん魔?」
「ゴールディ・・・」
「あなたの物マネが急に見たくなったの」
「ゴ〜〜〜ルディ〜〜」(銭形警部)

 二人が旅に出るのに理由はいらなかった。俺達はまるで昔のように肩を寄せあって歩く。恐らく、空港では劇団員達が最新兵器を配備して待ち受けているはずだ。遥か頭上から、主演女優Mが操縦する戦闘ヘリが急降下してくるのが見えた。俺はゴールディにkissをしながら、スーツに潜ませた38口径のベレッタに手をかける。もう片方の手に、溶けかけのチョコエッグ(中身はレトリバー)を握りしめて・・・。





なぜか関西探訪● 梅田は東京でゆう所の新宿と渋谷と池袋をがっちゃんこした街です。なので梅田では高いビルにのぼって「夜景がきれい!」とか言えるし、スターバックスのラテ飲むにも若者にまぎれて行列することもできるし、くんずほぐれつな男同士のカップルが見れたり。ええっと、とっても便利な街です。




〜にんにきにきにき ににんが三蔵〜 
『夏目』より『いかりや』
美津乃あわ

 かつて私は、毎週『日曜の午後8時からの1時間』よりも『木曜の午後7時からの30分』が待ち遠しかった。世紀の名曲『ガンダーラ』より、ダサ語呂合わせ唄『ゴーゴーウエスト』の方が憶えやすかった。ミッキー吉野のアジアンテイストでロックな曲より、ピンクレディーのインチキな替え歌の方が好きだった。知らぬ間に代わっていてあまり気付かれずにいた西田敏行モ左とん平よりも、「一体あなたは何の役?」状態のカトちゃんの方が私には重要だった。石の中からマチャアキが飛び出すと言う凝った特殊効果より、「ア〜ミ〜マ〜」でポワンと煙が出る方がカッコよかった。

 まだまだ続けるわよ。皆、ついてきてる?
 すらっと毛並みの良い育ちの良さそうな神々しい馬より、「ナハハハ!」「パカラッパ!」等の擬音しか喋れないバカっぽ付きびと馬がいとおしかった。(パカラッパ!) 生身の人間を吊るすワイヤーアクションより、人形の肘から突き出ている針金の方がドキドキした。お金かかってそうな広大な原野でのロケよりも、スタジオの一角でちまちまやってる畳1枚分のスペースの方に世界観が広がった。岸部シローの関西弁より、仲本工事の存在感の無さの方が愛嬌があった。妖怪を退治する巧みな妖術より、何かといえばすぐ飛んで来ては全員を押しつぶす『巻きうんこ』に熱狂した。
 それよりなにより、私にとっては美人薄命の夏目雅子より、今だにお茶の間を賑わし続けるいかりや長介こそが三蔵法師なのだ。

『夏目』より『いかりや』
『夏目』より『いかりや』
『夏目』より『いかりや』
『夏目』より『いかりや』


 私は今回、この言葉を本番前に唱えて舞台に臨もう。
 ・・・でも、夏目雅子きれいだったよなぁ。気品があって、凛としてて、まさに天上の人って感じで。女の私でもうっとりしちゃうもんな〜。
 いやいや待てよ、確か南アフリカの奥地の原住民に、首長族みたいなもんで下唇に皿を入れてその皿が大きけりゃ大きい程美人の証っていう民族がいると、昔『知られざる世界』で久米明が言ってたぞ? と言うことは、南アフリカに行けばいかりや三蔵だって美人と言う事だね。よし、やはり今回は『夏目』より『いかりや』だ。この言葉を胸に刻もう。そうすればきっと、私が演じる三蔵は皆に何か伝えられるはずだ。
 皆、私の演ずる素晴らしい“いかりや”楽しみにしててね。
 ・・・おい、これでいいのか? 何か今回、壊れてないか私? どうか?







なぜか関西探訪● 阪急「梅田駅」はJR「大阪駅」に隣接しています。梅田で降りてもそこは大阪です。大阪で降りても梅田です。大阪在住でも未だに梅田なんだか大阪なんだかわかりません。ところで浪速って何? 浪花って何? 浪華って何?



見ザル言わザル恥知らザル  浅野彰一

 突然ですが、俺にはトラウマがあります。サルのトラウマです。サルなのにトラウマ。サルなのにトラウマ。(笑)
 俺は大阪の北部にある小さな町に生まれました。町にはサル山が隣接しており、幼い頃はよくそのサル山に遊びに出社しました。子供なのに出社。(爆)そこで、サル達はいつも彰一少年に手荒な挨拶をしてきました。

「やあ、腹減ったな。ご飯にしようっと」 
「ギャギャァァーッ!(チャンス!)」

 サルは強盗です。食べ物を少しでも見せると、例え相手が女子供であろうと容赦なく襲いかかります。(恐) そう、あのサルも川向こうの岩場で美味そうに俺の弁当を貪っていました。生物間の弱肉強食を教えんがために!(訓) その他にも水筒、帽子、財布、祖母等、あらゆる物を取られ続けた俺はすっかりサル嫌いとなりました。猿の馬鹿野郎。いえ、猿だから馬猿野郎。猿鹿野郎。馬猿鹿野郎?(哀)
 その後立派に成長した彰一少年は役者になり、舞台に出演する様になりました。とある劇団関係者達との飲み会の席。私は思いも寄らぬ 会話を耳にしました。えん魔氏がある女性に質問しています。

「西遊記をやるんだが、美津乃は何役だと思う?」
「美津乃さんは、やはり三蔵法師ですか?」
「正解。では、浅野は何役だ?」 
「う〜ん・・・カッパ?」(破)

 その後、場が異様に盛り上がったのは言うまでもなく、えん魔氏、美津乃氏の狂ったような笑い声を今も忘れる事ができません。ずっと枕を濡らす日々が続いています。(寿)

「そうですか、俺、カッパですか? は、ははは」
(違う。俺は猿、ほら、あの猿だよ! 猿と言ってくれ!)

 と、半泣きで答える俺は最早猿に魅入られた河童でした。河童の馬鹿野郎。いや、河童だから河童鹿野郎。猿は? じゃあ、猿馬河童野郎。馬猿河童鹿野郎?(味)

 このようにサルトラウマのある俺があの孫悟空を演じるのも、きっと何かの因縁。俺は生まれた時からサルを演じる運命だったのです。そうでがしょう、仏様?(税)





なぜか関西探訪● 梅田「東通り」は大繁華街。通りの入り口では沢山のホスト系お兄さんが女の子に声をかけています。ファントマの飲み会はいつも東通 りのお店で行います。ある打ち上げ終了後、店の前でたむろっていたらホスト系お兄さん達がやってきました。そして「あっ、えん魔さん! お疲れ様です!」と挨拶していました。えん魔さんって何者?




小文字の小言/「神も仏もございません」

 次の公演は『三蔵/仏を斬った僧」という事ですが、最近本当に「神も仏もいやしない」と思っちゃう事が多いですね。
 例えば日本中を恐怖ドンドコに陥れた『16才少年バスジャック事件』。少し前では「酒鬼薔薇」とか、「16才主婦殺害」とか、「伊代はまだ16だから事件」とか、いろいろ続きましたね。恐ろしいですね。   
 もし本当に仏様がいるなら、彼等が犯行を実行する前日、「お前がしようとしているのは、相手にこんな痛い思いをさせるのだよ」とばかりに、少年を電撃ネットワークにでも加入させるのではないでしょうか? 花火や裸電線を使った激痛パフォーマンスに、彼は初めて『人の痛み』を知る事でしょう。え? ダメですか? 
 じゃ、こうゆうのはどうです? 犯行の前日、少年の夢の中に出てくる仏様。「もしお前がどうしてもやるというのなら、これを観てからにしなさい」 ハッと夢からさめる少年。枕元にはなぜか芝居のチケット! 「ファントマ?」 お告げの通 り芝居を見る少年。そして彼は爆笑、号泣、熟睡、激怒をくり返したあげく、こう思うはずです。「俺はなんて馬鹿な事を考えていたんだ!」
 でもそうなっていないと言う事は、やはり仏様はいないのでしょうか・・・。なら我々が仏様の意志を伝えましょう! 全国の壊れかけの少年少女達。一度でいいからファントマを観に来て下さい。そして学校関係者の方々。中学、高校の先生。愛すべき生徒の情操教育にファントマの御芝居はいかがでしょう? 命の尊さを教えるのに最適な劇団ですよ? 
(※ どの作品も大勢人が死にまくりま〜す。ダメですか?)