仕事先で急に認め印が必要になった。近くで三文判を買おうと、中崎町商店街に出るとすぐに立派な印舗が見つかった。(ちなみにハンコ屋さんはなぜ『印舗』と言う?
危ないだろ)
時計を見ると午後7時ジャスト。閉店ギリギリだったらしく、店員さんがシャッターを下ろそうとしている。慌てて店内に入り、「伊藤の印鑑を下さい」と言うと、「店を閉めたところなので明日の朝一番にまたお越し下さい」との事。一瞬耳を疑ったが、物静かそうな初老の店員は「閉店間際に買った判子はすぐに失なってしまうものです。長持ちさせるなら開店時になさい」の一点張り。「あのう、取り合えず安いヤツでいいんですけど・・・」と続けると、不機嫌そうに店のシャッターを下ろされてしまった。あっけにとられたが、シャッターに力強く書かれた店の信条を見てすぐに理解した。『
人生は勝負だ! 社会は戦争だ!』 ご存じの通り欧米ではサインが重視されており、印鑑をこれほど重要とするのはアジアだけ。日本でのハンコの意味は取り分け重い。古くから材質から技法、印相等、もはや伝統文化である。三文判とは言え、このような厳粛な店に対して失礼な事をしてしまった。今度はちゃんと昼間に来て買おうと思いつつ、すぐ近くのタバコ屋で三文判を購入して用を済ませた。考えてみりゃ、仕方ない。本人がいるのに認め印を買いに走り回らなきゃならない国だものなぁ。幸い、安物はまだ紛失せず使用させて貰っている。
|