「デリシャス・ザ・タイタニック」
 つい先日、心斎橋でブラリと立ち寄った洋食屋で『タイタニック・DE・オムライス』なる一品を注文した。その名の通 り、ウェイトレスが花火をまき散らしながら運んできた皿には、船形のオムライスがソースの海に半分突っ込んでいる。よく見ると、船の先端にある人形そのものが花火で、もうディカプリオだか誰なんだかわからぬ 程に彼らを焼きつくしていた。

 『ブーム』と言うものは世に広く浸透すればする程、その本質を見失う事が多いらしい。

 タイタニック人気にあやかったビジネスは枚挙のいとまがないが、ホテル産業も例外ではない。取材した某一流ホテルでは、客室を豪華客船風に装飾し、沈没寸前に出された再現ディナーが付いた宿泊プランが女性に人気だと言う。デザートフロアの中央には大きなタイタニック号型ケーキが陳列されていた(ちなみに先端の二人はオレンジ味)。ショー・ウインドウには『エクレア・タイタニック』と題された何十隻もの長細いシュークリームが、青色の台紙の荒波に揉まれている。が、そこに書かれた宣伝コピーを見た瞬間、筆者は目を疑った! 「エクレア・タイタニックの船内は特製フレッシュ・チョコクリームが満載! お口の中でトロけるように沈没します!」 彼らの商魂にかかれば、史上最大の愛も史実的大事故もへったくれもない。『日航機ジャンボ饅頭/九ちゃんの似顔絵入り』とか作ったらはったおされる気がするんだが。その夜、あんまりうまかったのでタイタニックを3隻も食った筆者にはこれを嘆く資格はない。