幕末殉教伝
イエス斬り捨て






主は申された。
「汝、右の頬を打たれれば、
 ・・・斬るしかないぜよ」

 幕末、社会思想は多岐に渡り、士道信念は揺るぎ、日本は渾沌と化していた。栄華を誇った幕府は存亡の危機にあり。外国を排斥する『尊王攘夷』を大義名分に、勤王の志士と名乗る過激脱藩浪人達が洛中に集結。過激な倒幕論を喧伝し、思想相容れぬ者を無差別に暗殺する事件が横行する。


 その時代には暗殺プロフェッショナルが必要とされた。倒幕派の中で、もっとも台頭したのが武市半平太率いる土佐勤王党である。武市は「暗殺組織」のトップとなり、薩摩長州と対等以上の発言権を持つようにまでなっていく。武市半平太に盲信的に従ったのが岡田以蔵である。彼に思想はなく、ただ友である武市の命令のまま、ひたすら「天誅」をくり返す。








 政治の批判、外国列強との融和を唱える人物、坂本龍馬の存在が大きくなる。龍馬は左派右派関係なく世界に目を向けた奔放な活動家であった。そのため幕府、尊王攘夷の両組織から追われる身だった。治安維持のために幕府が組織した浪人部隊「新撰組」が龍馬や武市らを付け狙っていたのである。


 孤独な殺し屋、岡田以蔵にとって龍馬は武市以外に唯一心を許せる親友だった。
「以蔵さ、キリスト様はよ、己が左の腕を斬られれば、右の腕を差し出せち言う」
「なんじゃ、そらぁ? ただの馬鹿ぜよ」
「いや。そうすりゃ相手は振り上げた刀を止めて、こっちの話を聞くようになるろう?」
「インチキ神なんぞ、信じられんのう」
「なら、あしが信じられんがか?」
「いや、龍馬が信じるなら・・・あしも信用するぜよ」








 龍馬は勤王派にとって宿敵である幕府重臣:勝海舟を以蔵に紹介する。勝の屋敷で以蔵は生まれて初めて地球儀を見る。不思議なことに、心にわき上がったのは外国への畏怖ではなく、純粋な憧れだった。キリストの言葉にすら熱心に耳を傾ける以蔵。神の言葉は、武市の暗殺命令とも志士達の罵声とも違い、以蔵の心に深く染み入った。


 龍馬に誘われるまま、京を離れる決心をする以蔵。
 だが、新撰組が志士らの潜む池田屋を発見、まさに幕末最大の争乱が起きようとしていた。そこには以蔵の仲間が大勢いるはずだった。以蔵が選んだのは、愛用の鉄剣か、友がくれた十字架なのか・・・







CAST

保村大和
久保田浩(遊気舍)
猫ひろし
牧野エミ
盛井雅司
伊藤えん魔
上瀧昇一郎(空晴)
坂口修一
副島新五
行澤孝(劇団赤鬼)
後藤篤哉(camp.06)
田村K-1
天野美帆
いいむろなおき
(いいむろなおきマイムカンパニー)
ダイナマイトしゃかりきサ〜カス
きんた・ミーノ(おかげ様ブラザーズ)


舞台写真/山田徳春(office 500G.)