「てめぇ、全然人気ないじゃねぇかッ!!」
「そう言う、えん魔さんこそ大恥ですねッ!?」
俺達が互いに罵りあいながら到着したのは「48%出る」(西日本心霊出没調査委員会カスタマーセンターお客様相談室調べ)と言われる墓地だった。某日、深夜2時。いい歳をした2人の男が肝試しにやってきたのだ。
断っておく。これは『恐トマ』なる恐怖イベントの罰ゲームだ。ゲーム内容は割愛するが、要はファントマの中で最も人気のない者は最悪の恐怖実験「心霊スポットでちょけた事をやる」決まりになっていた。その不人気ベスト1と2がどう言う訳か、俺と浅野に確定しちまった。
仮にも座長と看板俳優と思っていた2人がだ。俺の腹は決まった。ファントマなんざとっとと解散だ。ボケナス。だが、約束は守るさ。
そこは関西心霊スポットとして少しは名の知れた某墓場。寂しい山中を車でしばらく行くと、目の前に『行止り』の看板。薄気味悪すぎる。と、背後から声。突然の事に俺達は5.2メートル程飛び上がった。(JOC公認/世界新)
「お前さん方、こんな闇夜に何してる?」 それは一匹の犬だった。「なんだ犬か。え、犬? わぁ! 犬が喋ってる! ワヒ〜!」 騒ぎ出した浅野を怪訝そうに見据えながら犬は言った。「そう言う観念的な事はどうでもいい。悪い事は言わん。早く引き返せ」 そして、その犬は軽く会釈する飼い主に連れられ、再び漆黒の中へと消えていった。飼い主の持つスコップからは鮮血がしたたり落ちていたっけ。
こんな馬鹿な遊びは早く終らせるに限る。俺達は慌てて墓地最深部へと向かった。懐中電灯の灯が吸い込まれるような闇夜。ただでさえテンションの高い浅野が、「マジヤバッ! マジヤバッ!」と南アフリカの呪術のように繰り返す。うるせぇな。こんな奴早くクビにしよう。その時だ。真横の草むらから獰猛な灰色の固まりが現れた。「シギャーッッッ!!」 それはまさしく『化け猫』だった。浅野は精神崩壊状態で喚きちらしている。(まずい。このままではやられる!) 化け猫が浅野の首筋に喰いつこうとした瞬間、俺は胸ポケットに隠し持っていたフリスキー/カニとツナのミックスを放り投げた。「シュワーッ! バオン!」 周囲に轟音が鳴り響き閃光が走る。俺が恐る恐る目を開けると、猫が足下に浅野を組み伏せているのが見えた。妖怪はギロリと俺を睨みつける。「このワシの怨念を解き放つ者がおるとはにゃ。よかろう。貴様に免じここを通してやろう。行くがいい陰陽師(平安版マトリックス)。さよにゃら! ボーン!」 まったく危ない処だった。俺は大量に失禁して震えている浅野に成人用ムーニーマンをはかせ、さらに奥へと進んだ。
20分も歩いただろうか。ようやく眼前に広大な墓地群が現れた。「い、一体、な、何千ストーンあるんでしょうね? 1、2、3・・・」 馬鹿丁寧に墓石を数えだした馬鹿の延髄に手刀を入れながら、俺は嫌な予感に包まれていた。「墓石の数の単位ってストーンでいいのか・・・?」 晩夏と言うのに周囲は異様な冷気で満たされている。間もなく、俺達は目標としていた一つの墓を発見した。ここには、数年前に没したある知人が眠っている。(実話) 俺はダチ公の墓に語りかける。「よう。久しぶりだな。許せ。これが俺の業なんだ。さぁ、ちょけるぜ!」
一喝を合図に、俺と浅野は無礼千万ちょけにちょけ倒した。その光景は和尚秘蔵の水飴をなめまくる、開き直った一休と珍念のごとく。なんとか証拠写真を撮り終え、俺達が帰路につこうとした時の事である。後ろの墓石がグラリと揺れた気がした。重いものが倒れる振動。「え?」 と、倒れた墓の中から全身包帯巻の巨大な死体が這い出てきたのである。死体は低くしゃがれた声を出した。「綺麗なお姉さんは、好きですか?」 「ピャャァアアア!!!」 浅野が悲鳴をあげた後の事は覚えていない。
気がつくと、眩しい朝日が俺の目蓋をくすぐっていた。「夢だったのか・・・?」 墓地は何事もなかったように穏やかな空気に沈んでいる。見ると、例の墓石も元あった状態に戻っている。終わった。罰ゲームは終わったんだ。さぁ、帰ろう。俺はフラフラ立ち上がった。墓石をよく見ると、浅野のオレンジ色の上着の切れ端が、石と土台の間に挟まっている。俺は見なかった事にして帰った。何も恐くなかった。ただ、あなたの優しさが、・・・恐かった。(かぐや姫/1467年没)
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