なるぜぇ ストロングマン
伊藤えん魔  


身体を鍛えている。役者たるもの当然だ。鍛練せぬものは舞台に立つ資格なし。死して屍拾う者なし。

だが役者は役者だ。野球やサッカー、公認スポーツのようなトレーニングを頑張っても仕方ねぇ。そこで浅野が考案したのが『蹴鞠』。うん。いい。いいぞ。昨年やったClaw Glowは平安時代の舞台だ。調度いい。普通じゃない。人のやらない鍛練をやってこそ舞台俳優。それでいい。俺はみんなが必死に蹴鞠に汗する姿を見ながら、間もなくやってくる武道館公演をイメージした。それでいい。

まだまだ練習量が足りない。舞台を自在に駆け巡る無尽蔵の体力、そして観客が羨望するルネッサンス彫像のような肉体、爆笑を渦巻かせるシェーざんすなキレ。これらを獲得するには、それなりのトレーニングが必要だ。持久力、瞬発力、筋力を鍛え上げる鍛練法はないか?

俺は膨大な資料を集め、最も有効な肉体トレーニング法を研究した。格闘技、トライアスロン、ウェイトリフティング、ボディビル、カバティ、餅つき、羽子板、凧あげ、お習字、(正月ボケ時)、etc。
どれも偏っていてピンと来ない。俺は購入したばかりのゲイラカイトを天空高く飛ばしながら「違うな」と呟いた。電柱にからまった凧糸を必死にほどいていると、一枚の張り紙が目に止まった。
『世界最強の男達 ストロングマン コンテスト』

ピンときた俺は羽子板の対戦相手をしていた女の顔に墨を塗り付け、急いで本屋に走った。『ザ・ストロングマン』。そこには屈強な男達が信じがたい競技種目を争う姿があった。俺は驚愕する。
『18tトレーラーを牽引』
『冷蔵庫を背負って50メートル走』
『倒れた巨大な銅像を起こしてまわる』
『荒馬を抱き上げ長時間じっとする。ひたすら静止』
『美女をほうり投げ2階のベランダに掴まらせる』
これだ・・・。本物の馬鹿だ。馬鹿じゃねえか!

非公式ながらスポンサーには大手スポーツ用品メーカーの他、シュワルツネッガー、スタローンらも名を列ねる。欧米ではメジャーな競技らしい。選手には元オリンピック選手、元レスラー、元プロボディビルダー等がゴロゴロしてやがる。連中は桁はずれの賞金と、好条件の企業契約を目指してる訳だ。

早速、DVDを輸入した。(実話:日本じゃ売ってねぇんだぜ) 俺は餅をつくのも忘れすっかり見入ったさ。おかげで大量の蒸したうるち米を無駄にしちまったが、劇団の輝く未来が見えた気がする。
その後、俺はヘヴィなトレーニング機材を導入し、劇団員達を鍛えている。高重量レップス、心肺カーディオ、反応速度ワークアウトの毎日は正直きつい。だが今年の公演、ファントマでは新しい演出が次々と可能になるだろう。
例えば、『美女がピンチのシーン』。俺は重低音大型スピーカーを背負いながら、舞台上に登場する機関車を牽引。そして彼女を天井の照明バトンにほうり投げて救出。その後、ジンベイザメを水槽から抱き上げ3分間ジっと静止。イメージはできた。それでいい。

俺も個人として、今年の秋に催されるストロングマン・フィンランド大会にエントリーするつもりだ。祈っててくれ。



大型トレーラーを引く

大阪城天守閣を引く

電柱を持ち上げる

インド象を持ち上げる

タイヤを400Kgフルデッドリフト

脳みそ40gのブルドッグリフト