恐いもの嫌い
他称ホラー案内人の真実
(E氏所蔵の心霊写真同時掲載)
告白文/E氏(仮名)


 俺の本当の事を話そう。実は恐いものがすげぇ嫌いだ。ホラー映画なんか絶対見ないし、ガキの頃に聞いてしまった恐い話は未だに悪夢となって俺を苦しめる。「誰か〜。助けて〜。ひぃ〜、婆ちゃ〜ん」ってな具合か。曲り角で唐突に人と出くわすと、相当の確率で驚かれる俺だ。だが本当にびびっているのは俺さ。ビックリすると凍るタイプなんで、『急に現れて無表情でぬうと立つ大男』に見えるだけだ。

 そんな俺の処には毎夏、大量の怪談や心霊写真が届けられる。
「こんな恐い話があるそうです。どう思われますか?」(一般の客)
 何とも思わねぇ。ものすげぇ恐いと思うだけだ。
「うちにあった心霊写真です。供養を願います」(無記名の依頼)
 できねぇ。慌てて人に回し見せるだけだ。
「凄い恐怖スポットがあるんすよ。探検してください」(番組担当者)
 恐いのわかってて誰が行くか。仕事だからやるだけだ。

 これもすべて『一心寺恐怖百物語』の案内人なんかになっちまったせいだ。ありゃ元々洒落で引き受けた仕事だった。俺の『伊藤えん魔』って名前が妙にイメージマッチするせいもあろう。名前の由来なんざ中学のハナタレん時に学芸会でヘンテコな閻魔大王様やったからなのによ。

 どうして俺がこんな恐い目にあわないといかんのだ?(バカボンのパパ風) 気がつきゃ十年も恐怖と付き合ってる。本棚にゃ怪談本が数十冊、集まった心霊写真はポジフィルム六百点。お蔵入りにした原本もいれると二千点はあろう。こんなモンいらねぇんだ。対談してきたその筋の人も沢山いる。つのだじろう先生や、年末にまたトークライブやる中山市朗氏は本物だったっけ。もう話も本人も恐いのなんの。思い出すだけで全身の毛が逆立つ。これじゃ、ちょっとしたウニだぜ。恐い話はうんざりだ。

「ピンポーン…………………」
 …と原稿を書いてるとドアチャイムが突然鳴った。今は午前二時を回った深夜だぜ? 人が訪問してくる時間じゃねぇ。気がつくと俺は重力に逆らい天井にピタリと張り付いていた。「ち、様子を見るか」 そのまま俺はカサカサと壁を移動した。上から見ると電灯カバーの上に随分と埃がかぶってる。シャツの裾を引っ張ってキュキュと拭き取る。ゆらめく部屋の明かり。さっきより四ワットは明るくなった気がする。よかった。明るい。
 こんな事をしてる場合じゃねぇ。外に誰かいる。意を決し、俺は玄関へと向った。

「ガチャリギギッポキィーパタンカツーーーーンーーーーンーーーン」
 夜中のドアは必要以上に廊下に鳴り響く。そう想像して自分で言ってみた。勿論、声を出せば勇気がわいて恐怖心を克服できる計算の上だ。
「ーーーーンーーーン、とか響いたらおもろいのよねぇーーー」
 逆に少し恥ずかしくなったので語尾を濁してしまう。失敗してお姉言葉になった。外には誰もいない。なら誰が一体チャイムを鳴らした? 確かに鳴ったはずだ。あれは聞き間違いなんかじゃなかったぜ。じゃ、あれは一体………? ふと呼び鈴に目をやる。急に体温が下がるのを感じた。沈黙。驚愕。座禅。修行。悟り。覚醒。変貌。新しい生命体へ。
「セールス・勧誘はお断りします」
 果たして、そこには俺が昼間張り付けたプラスチック表札がヒラヒラと舞っていた。粘着テープがとれかかって呼び鈴を押したのだ。
「ギャアァァァァァ!!!」
 俺は夜中だと言うのに大声でハキハキ悲鳴をあげ、転がるように両面テープをとりに戻った。で、ペタペタ表札を張り直したのである。

 真実の俺を理解してくれただろうか? 俺は恐いものが嫌いだ。なのに朝日放送め。俺を広いスタジオに閉じ込めて怪談朗読させやがって。ジャニーズ事務所め。俺を恐怖専門家に仕立て関ジャニらに恐怖講座させやがって。俺は恐いのが嫌いだってのに。ん、呼び鈴がまた鳴った?
「ピンポーン……ビタリ!!」(文末は俺が天井に張り付く音)


謎の発光、明らかに霊現象。中央に怒り狂う霊体が見える。日頃から交通安全を祈願したい。
遊園地で頻繁に起きる遊戯事故。元凶は悪霊による憂さ晴らし。霊には多額の金銭を与え供養済。
有名SF映画の中に写りこんだ念動の影。霊体には悪霊はなく、ただ人間に麺類を勧めたがっている。
都市近郊で発見された人間海洋生物。水死した人間の念がとりつき人間が浮き出ている。
森の中からこちらを伺う動物霊。霊視の結果、彼は子供に飛びつかれたいと願っているのが判明。
トライアスロン競技を写した写真だが、選手すべてが同じ顔になってしまった。特殊な変貌現象。
人間の精神が高ぶる激しいスポーツの現場では、よくこういった心霊現象が写される。
連続写真に野球好きだった少年の霊体が。動作に霊が反応。故人が好んだ事が強い霊傷となる。